あなたがもし組織やチームの推進者であれば、「○○を徹底しよう」「意識しよう」と実践すべき行動を指導し、行動を促す機会があるでしょう。
しかし、その指導に対してメンバーが直ちに応えられるか?実践できるか?というと、うまくいかないものですよね。そんなよくある局面において、推進者に知ってほしい、Efficacy(エフィカシー/自信と信頼の力)のアプローチをご紹介します。
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圧だけ強めてもうまくいきません!
「言ってるのに、実践してくれない」「何度伝えても行動してくれない」
そんなもどかしさに、思わず「やりなさい」の圧(プレッシャー)を強めてしまった経験はありませんか?例えば、「○○たるもの、○○すべきだ」「これはとても大事なことなんだよ?」とメンバーに念押しする。それでもメンバーは動かない。こんな状態が続くとだんだんイライラしてきますよね。「なんでやらないの?」と言いたくなることもあるでしょう。実際にその言葉を口にしなくても、メンバーはその圧を敏感に感じ取っているものです。
私も、そんな経験があります。あれは確か社会人3年目、売上集計を担当していた時のこと。同じ営業所のメンバーに「売上を○○時までに入力してください」と朝礼で伝えたものの、誰もやってくれない。また数週間後、「前にも言いましたが、売上は○○時までに入力してください」とさらに圧を込めて再度発信(生意気な若手ですね(笑))。それでもみんなやらない。結局、いらだちながらも諦めた私は、翌朝早く出社して渋々その締め作業を行うことにしました。本当は前日に終わらせたいのに!
でも今思い返せば、
圧を最大にすればいい?それはNoです
「行動するまで圧を強めればいいのでは?」と思った方もいるかもしれません。確かに、メンバーに強く行動を促すことは、あなたの本気度が伝わるなど、効果的な面もあるでしょう。しかし、圧の力だけに頼ってメンバーをコントロールしようするなら、それは残念ながらパワハラになりかねません。(宿題をやらないからって、ゲームを隠すのはNoです。)それに、「言われたことはやるが、それ以上の工夫はしない」という人材をあなた自らが作り出してしまう危険性すらあるのです。
ところで、ここまで本コラムを読んで、こう感じている推進者の方もいるかも知れません。「私のメンバーは違います。私の指導に対してしっかり動いてくれる」と。でも本当にそうでしょうか?もしかするとメンバーは、推進者であるあなたに対して「できているふり」をしているだけかもしれません。
さらに言えば、組織全体で「できていないこと」がタブー視され、メンバー間でも「できていない」と言い出しにくい環境だと、その状況はさらに深刻です。推進者は「みんなできている」と思い込んでしまい、問題への対策ができません。その一方でメンバーは「みんなできているのに、自分だけできていない」と感じ、自信を失ったり、自責の念に駆られてしまうことになります。
打開策:Efficacyを高めよう
「○○を徹底しよう」「意識しよう」といった指導や要求に加え、その実践をメンバーに促す際にぜひ知っておいてほしい考え方があります。それが、Efficacy(エフィカシー/自信と信頼の力)を高めるアプローチです。
◆Efficacy(エフィカシー/自信と信頼の力)とは
ある領域に対して「自分ならできる」と自信を持っていること、つまり自分の能力を信頼している状態です。
例えば、先ほどの売上入力の例でいえば、「自分は夕方に売上を入力できる」と自信を持っていること。夏休みの宿題にたとえるなら、「自分なら宿題を早く終わらせられる」と信じている状態です。反対に、「売上入力、わかっちゃいるけど、急ぎの対応が多くて後回しになるんだよな…」「宿題は早くすましたいけど、でも量が多すぎるよ。計画的に進めるのは苦手なんだよな…」と感じているなら、その領域のEfficacyが低い状態といえます。
ここでは、Efficacyを高めるための方法を3つご紹介します。
①達成体験(試行錯誤)を積むこと
Efficacyを高めるために最も重要なのが「達成体験」です。達成体験が積み重なることで自信が生まれ、行動を継続するエネルギーとなります。ですから、推進者は「○○を徹底しよう」と投げかけるだけでなく、どうすればこの達成体験をデザインできるかも一緒に検討しておくと良いでしょう。
例えば、「○○を徹底しよう」という目標があっても、それを達成するためのハードルが高い場合があります。そうしたときには、もう少し手前に小さな行動目標を設定してみることをおすすめします。一歩でも行動できれば、その達成体験が小さなEfficacyとなり、次のステップに進む自信を生みます。少しずつ達成体験を積み重ねていくことで、Efficacyはさらに大きく育っていきます。
また、達成体験は「試行錯誤」とセットであることも大切なポイントです。行動を起こせば失敗することもありますが、その失敗こそが学びの源です。失敗を恐れずに挑戦し、そこから学びを得ることが、Efficacyを高める土台になります。失敗を歓迎し、それに向き合う姿勢を大切にしましょう。
②代理体験(他者からの刺激)をうむこと
とはいえ、メンバー自身の「達成」だけで自信をつけ、行動変容を促すのは至難の業かもしれません。そのため、達成体験に加えて「代理体験」をうまくデザインすることが重要です。
代理体験とは、他者の頑張りを見て「自分もできるかもしれない!」という自信を得ることです。自分以外の誰かが成功したり、努力している姿を見て、その刺激を受けることによって、Efficacyを高めることができます。
では、どのように代理体験をデザインできるのでしょうか?以下は私からの2つの提案です。
提案1:あなた自身の達成体験や試行錯誤をメンバーにシェアする
振り返ってみてください。「○○を徹底しよう」「意識しよう」と推進しているその領域について、あなたは最初から自信(つまりEfficacy)を持って行動できていたのでしょうか?多くの場合、最初から自信を持てた訳ではなく、そこには試行錯誤の過程があったはずです.。そうであれば、その体験をぜひメンバーにシェアしてみてください。
あなたの体験を知ることで、メンバーは勇気や学びを得ることができるはずです。最初から完璧でなくても、試行錯誤を続けることで自信を得て行動できるようになったというメッセージは、非常に大きな刺激となります。
提案2:メンバー同士で学び合う機会を作る
代理体験は、モデルとなる人物と自分との類似性を感じるほど効果的です。経験や年齢、入社歴、境遇などが近いメンバーから学ぶことで、より大きなインパクトを得ることができます。
代理体験のデザインにおいて欠かせないのは、メンバー間が目標に向かう”プロセス(過程)”を共有しあうことです。例えば、以下のようなプロセス共有をおすすめします。
・上手くいっていることを伝え合う
自分にとって当たり前にできていることでも、他のメンバーにとっては新たな学びや刺激になるかもしれません。
・上手くいっていないことを伝え合う
失敗や挑戦の中にも学びがあります。できなかったことに対して向き合うことで、次に活かせるヒントを得られるはずです。
これは、できないことをタブー視しているチームでは決して実践できないことです。そのようなチームは、代理体験の力を活かせていないといえます。これはもったいない!
③ポジティブフィードバックを行う
メンバーの行動に対して、反応や承認、フィードバックを行いましょう。できることなら、ポジティブなフィードバックを意識して行いましょう。例えば、「頑張っていますね」「あともう少し!」「ナイスチャレンジ」「きっとできるよ」などの声掛けをイメージしてください。
ポジティブフィードバックはEfficacyを高めるために効果的です。推進者としてあなたがポジティブフィードバックを積極的に行うことで、その姿勢はメンバー同士に広がり、チーム全体のEfficacyが向上します。
「褒めるのは苦手」「褒めるポイントってないんだよな」と感じるかたもおられるでしょう。コツは、メンバーの良い点やできている部分に意図的に注目することです。
ところで、あなた自身も、誰かから受けたポジティブなフィードバックが、自信を持つきっかけになった経験があるのではないでしょうか?同じように、あなたのポジティブフィードバックをきっかけにして、メンバーが大きな自信を持てるようになる可能性があるのです。ぜひ実践をおすすめします。
最後に:あなた自身も、推進のEfficacyを高めよう!
どうでしょうか?Efficacyを高めるアプローチ、できそうですか?「自分には難しいかもしれない」と感じていませんか?大丈夫です。あなたのEfficacyを用いた推進の実践に対しても、このEfficacyを高める方法を活用すればいいのです。
まずは、一歩目として小さな達成体験を積める行動を考えてみましょう。次に、代理体験を得るための行動を意図的に起こしてみてください。そして、ポジティブフィードバックをしてくれる人がいるか探してみましょう。
Efficacyを高めるアプローチは、あらゆる領域に活用できます。ぜひ実践あれ。