あなたのチームは、活気にあふれていますか?
- 「最近、チームに挑戦する雰囲気がないな…」
- 「目標を言うと、メンバーが萎縮してしまう…」
- 「安心感は大事だけど、なあなあな関係になってないか?」
もし、一つでも心当たりがあれば、あなたの組織は「安心感」と「危機感」のバランスが崩れているのかもしれません。安心感だけでは、成長の止まった「ぬるま湯組織」に、危機感ばかりでは、メンバーが疲弊する「ギスギス組織」に・・・この究極の二択のような課題を解決する鍵が、近年注目されている「心理的資本(Psychological Capital)」です。
この記事では、脳科学と経営論の知見を元に、心理的資本のフレームワーク「HERO」を使って、最高のチームを作るための具体的な方法を解説します。
Contents
なぜ「安心感」と「危機感」は暴走するのか?
まず、なぜこの2つの感情のバランスがこれほど難しいのか、私たちの脳の仕組みと組織での現れ方から見ていきましょう。
脳が求める「安心」と「危機」
私たちの脳には、感情を司る「扁桃体(へんとうたい)」という部位があります。
- 安心感の正体: 安全な環境では、「セロトニン」や「オキシトシン」といったホルモンが扁桃体の過剰な興奮を抑え、心身をリラックスさせます。これが「安心感」です。
- 危機感の正体: 一方で、脅威やストレスを感じると扁桃体は一気に活性化。「ノルアドレナリン」などのストレスホルモンを分泌させ、心拍数を上げ、全身を戦闘(または逃走)モードにします。これが「危機感」です。
つまり、安心を求めつつ、常に危機に備えるのが、私たちの脳にプログラムされた生存戦略なのです。
組織で起こる「両極端」
この脳の仕組みが、組織では次のような形で現れます。
状態 | 脳の状態 | 組織の症状 |
過度な安心感 | 安心モードが優位 |
ぬるま湯組織(コンフォートゾーン) ・現状維持を好み、変化を嫌う |
過度な危機感 | 危機モードが優位 |
ギスギス組織(パニックゾーン) ・挑戦や発言への恐怖、萎縮 |
多くのリーダーが目指すのは、このどちらでもない、「心理的に安全な環境(安心感)」で、メンバーが「健全な危機感(成長のための挑戦)」を持てる状態のはずです。その理想的なバランスを調整する羅針盤こそが、「心理的資本」なのです。
「心理的資本(HERO)」とは心のエネルギー資産
心理的資本とは、個人の成長やパフォーマンスの源泉となる、ポジティブな心理状態のこと。いわば「心のエネルギー資産」です。
これは、訓練によって開発・強化できると科学的に証明されており、以下の4つの要素の頭文字をとって「HERO」と呼ばれています。
- Hope (希望): 目標への意欲と、達成までの道のりを描く力。
- Efficacy (自信): 困難な課題でもやり遂げられるという自己効力感。
- Resilience (再起力): 逆境や失敗から素早く立ち直り、成長する力。
- Optimism (楽観性): 物事のポジティブな側面に目を向け、成功を信じる力。
では、このHEROを使って、あの厄介な「安心感」と「危機感」をどうマネジメントすればよいのでしょうか。
HEROで実践!「安心感」と「危機感」の最適バランス術
ここが本題です。HEROの4要素を意識的に高めることで、組織は「ぬるま湯」にも「ギスギス」にもならずに成長できます。
1. Hope (希望) で「健全な危機感」に意味を与える
ただ「売上がヤバいぞ!」と危機感を煽っても、メンバーは「どうすれば…」と不安になるだけです。ここでHope(希望)の出番です。
方法
- 魅力的なビジョンを示す: 「この困難なプロジェクトを乗り越えれば、業界No.1になれる!」といった、ワクワクする未来像を共有する。
- 具体的な道筋を示す: 高い目標(Willpower)だけでなく、そこに至るための具体的な計画や必要なリソース(Waypower)をセットで提示する。
これにより、漠然とした「危機」は、挑戦すべき「希望ある課題」に変わります。これが健全な危機感の正体です。
2. Efficacy (自信) で「挑戦できる安心感」を育む
新しいことへの挑戦には、適度な危機感が伴います。しかし、「自分には無理だ」と感じれば、それはただの恐怖になってしまいます。
方法
- スモールステップで成功体験を積ませる: 最初から大きな仕事を任せるのではなく、少し背伸びすれば達成できる課題を与え、成功体験を通じて「自分ならできる」というEfficacy(自信)を育む。
- 権限移譲と支援: 「この件は君に任せる。困ったらいつでも相談してくれ」というスタンスで、挑戦を後押しする。
「あなたならできる」という期待と支援が、メンバーが安心して一歩踏み出すための土台(安心感)となります。
3. Resilience (再起力) で「失敗が許される安心感」を築く
挑戦に失敗はつきものです。ここでリーダーが叱責すれば、チームは一気に「ギスギス組織」へと傾きます。
方法
- 失敗を学びと捉える文化を作る: 失敗した個人を責めるのではなく、「この失敗から何を学べるか?」をチームで振り返る。
- リーダーが立ち直りをサポートする: 落ち込んでいるメンバーに寄り添い、次の挑戦に向けて励ますことで、Resilience(再起力)は組織全体に根付きます。
「失敗しても、また立ち上がればいい」という文化こそが、心理的安全性の核であり、最高の安心感を生み出します。
4. Optimism (楽観性) で「未来への安心感」を醸成する
プロジェクトが難航しているときなど、組織が危機感に包まれる場面は必ずあります。そんな時こそ、リーダーのOptimism(楽観性)が光ります。
方法
- ポジティブな解釈を促す: 「今は苦しいが、これを乗り越えれば我々はもっと強くなれる」と、未来への明るい見通しを示す。
- ネガティブな情報を遮断しない: 問題から目を背けるのではなく、「問題は見えている。だからこそ解決できる」という姿勢で、建設的な楽観性を保つ。
リーダーの楽観的な姿勢は、チーム全体の過度な不安を和らげ、困難な状況でも前向きに取り組む「心の余裕(安心感)」となります。
最高のチームは「HERO」から生まれる
「安心感」と「危機感」は、対立するものではありません。
心理的資本(HERO)という土壌を豊かにすることで、「心理的安全性」という最高の安心感を育み、それが「健全な危機感」という成長のエネルギーを支える。
この好循環こそが、変化の時代を乗り越え、持続的に成果を出し続けるチームの姿です。
明日から、あなたのチームの「HERO」を少しだけ意識してみませんか?メンバーの希望に耳を傾け、彼らの自信を信じ、失敗からの再起を助け、楽観的な未来を語ること。その一つひとつの行動が、組織を「ぬるま湯」でも「ギスギス」でもない、最高の場所へと変えていくはずです。