現在、日本の高齢化は世界に類を見ないスピードで進行しています。総務省が令和元年に発表した資料によると、高齢者の就業者の割合は12.9%と過去最高を記録しました。
「人生100年時代」は本当にやってきます。働くシニアはどんどん増え続けるでしょう。そうなったとき、精神面からも経済面からも、老後と仕事とは切っても切れない関係になるはずです。そして意欲と能力のあるシニアがいつまでも活躍できる社会は、労働力人口が減少していく日本にとっても、大きなメリットになるでしょう。
しかし現状では、企業側も働くシニアも、幸せな労働環境になっているとはいえないようです。それはどうしてでしょうか。また、シニア社員をうまく活用する方法は、どこにあるのでしょうか。
今回は、避けては通れないシニア社員との関わり方について、解説していきます。
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日本の企業は、シニア社員の雇用に消極的
国は「高年齢者雇用安定法」を定め、シニアの就労を後押ししていますが、実際のところ、企業はシニアの雇用に消極的。「法律があるから仕方なく雇用している」という会社も多いのではないでしょうか。
この「仕方なく」雇用が曲者で、残念ながらシニアの雇用条件は現役時代と同じ、というわけではありません。
・賃金が現役時代の6割程度
・昇給しない
・ポジションがダウンする
・目標管理は人事評価がない
会社にしてみれば、一度定年を迎え、再雇用したシニア層は「もう現役ではない」社員。最前線から離脱した社員という意識があるのでしょうか。上記の待遇からは、会社の「仕方なく雇用している」感が読み取れます。
能力あるシニア層も、モチベーションが下がってしまう
会社のそのような意識は、働く人は敏感に感じ取るでしょう。特に長く勤めていた社員は、「再雇用や、定年延長をしたところで、ステップアップは望めない…」ということが既に見えていると思います。「給与明細を見ると、現役時代から半額近くになっている」、「頑張ったところで評価されない」と、モチベーションを下げてしまうシニア層の気持ちも、なんだかわかるような気がしますね。
この現状も踏まえ、しっかりと認識しておくべきことがあります。それは働くシニアは、もはや「マイノリティ」ではなくなりつつあるということ。
シニア社員の「労働意欲の低い社員化」が進むと、シニア社員の増加に伴い、やる気のない社員が集団化します。それはジワジワと組織を侵食し、ゲームでいうと最後の相手となるラスボスを彷彿とさせるような威圧的でどことなく禍々(まがまが)しげな雰囲気を持つ恐ろしい集団となってしまいます。
この集団、会社に悪影響を及ぼすこと間違いありません…。
シニア社員のモチベーションを高めよう
本来、シニア社員は会社にとってメリットのある人材のはずです。シニア社員の持っている経験やノウハウは若手社員にはない貴重な財産です。だからこそシニア社員雇用のメリットに焦点をあて、「仕方なく」ではなく、活用する方向に考え方を改めることのできた会社が、成功するといわれるのです。
会社は、「シニア社員のどのスキルに給料を払うのか」、シニア社員は「自分のどのスキルを会社に売るのか」ということを明確にしましょう。そのいい機会が、定年です。節目としての年にお互いの考えを合致させておけば、仕事内容や給与、人事評価が変わることに納得したシニア社員は、それ以降も活躍してくれるでしょう。
会社としての支援も必要
シニア社員のモチベーションに依存してはいけません。会社として、支援制度を設けることも考えてください。ついつい若い世代に対するキャリア支援に目が向きがちですが、生涯活躍できるシニア社員を増やすための土壌づくりも忘れないようにしてください。
まずは、本人の意識アップ。会社によっては、特定の年齢がきたら受けられる研修を用意しているところもあるようです。自分はまだまだ若いと思っていても、研修でリアルな課題やビジョンを知ることで、一気に自分事になるはずです。研修を導入する場合は、外部の研修講師を招くということも有効ですね。
また社内の風土醸成も必要です。「シニア社員は、経験豊富で頼りがいのある存在」ということを広く認知させ、さまざまな世代とのコミュニケーションを促進できる環境をつくりましょう。特に近年の若手は、オンラインでしか先輩と関われず、スキルや知識を求めているはず。この組み合わせがうまくいけば、世代や部署を超えたスキルシェアが生まれる可能性が高まります。
自分のキャリアと常に向き合う
「自分のどのスキルを会社に売るのか」という考えは、なにもシニア社員だけのものではなく、若手社員のうちから意識しておくべきことです。終身雇用が崩壊した今、どの社員も「雇われている」感覚を脱ぎ去り、個人事業主のような「自分のキャリアは自分で広げる」覚悟が必要です。
キャリアという言葉には、就職や経歴、出世などのイメージがありますが、実は働くことに関わる「継続的なプロセス」を意味します。さらに生活と仕事は密接に関係しているため、キャリアとはその人の「生き方」すらを含めた意味を持っています。
今一度、自分のキャリアを考えてみましょう。仕事に関することだけでなく、どのような人生を送り、どのくらい資産を持つのか。定年時に、どんな存在になっていたいか。ライフデザインやファイナンシャルデザインも含めて考えると、あなたらしい、あなただけのキャリアデザインが見えてくるはずです。
シニアになっても活躍できる!会社が求める人材とは
優秀な人材、活躍できる人材といっても、具体的ではありません。分かりやすく2つのタイプに分けて整理していきましょう。人材には「自律型」と「依存型」の2つのタイプがあります。
「自律型」人材の特徴
・目標を達成するための戦略を自分で考える
・業務以外のことも積極的に取り組む
・自分を振り返り反省する
・今の環境に感謝している
・できない理由ではなく、どうすればできるかを考える
・仕事を通じて、自分の夢の実現を考えている
「依存型」人材の特徴
・指示されたことしかしない
・細かい指示が必要
・責任をとりたくない
・コミュニケーションが苦手
・すぐに人や環境のせいする
どちらの人材を会社が求めているかは明白。これからは、「自律型」人材を求める声がより多くなるでしょう。それは若手社員でもシニア社員でも同じことです。
「今の会社は自分には合っていない」とか、「上司がきちんと評価してくれない」なんてネガティブなことを言っていませんか。こんな言葉ばかりが出るのは、周りや環境に依存してしまっている証拠です。依存型の思考は、会社にとってはもちろんのこと、本人にとってもいいことはありません。上記のような考えが頭をよぎったら、「どんなキャリアを積みたいのか」ということを確認すべきです。
いつかは誰もがシニア社員
シニア社員が活躍し続けるには、自分の強みをしっかりと把握している必要があります。自分の強みを見極め、伸ばすにはしっかりとしたキャリアデザインが必要です。
「シニアなんてまだまだ先だし、今は必要ない」と思った方、誰もが必ずシニアになります。今現役でバリバリと仕事をしているあなた、自分がシニアとよばれる年齢になったときのことを、考えてみてください。
「いや、今の自分にはこれだけのスキルがある。きっと会社の役に立つ」
本気でそう思っているのなら、あなた以上にスキルを持つシニア人材が、今まさに埋もれている現状を直視し、今から活用できるように動いてみてはいかがでしょうか。
遅すぎることはあっても、早すぎることはありません。キャリアデザインを考え、年齢に縛られずに会社や社会の役に立つ人であり続けましょう。