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なぜ、私たちは「とんでもないリーダー」を選んでしまうのか?
皆さんは、上司や政治のリーダーを見て、「なんでこんな人が上にいるんだろう」と不満を感じたこと、1度はあるはずです。リーダーでいるということは、なんらかで選ばれているという事実です。でも、選ばれた人なのに、「なんでこんな人が?」というのはなぜでしょう。
もちろん、相性が合わない、考え方が違うなどは大いにあり得ますが、その要因以外でも「どうしてこんな人が選ばれたんだろうか」と疑問を持つ人も残念ながらいます。
私はその疑問の解決のヒントになるかも、と思い、「なぜ、悪人が上に立つのか」(ブライアン・クラース著:東洋経済新報社:2024年11月初版/2025年2月第2版) を読んだところ、気になる話がありました。
能力ではない。無意識に働くとされる5つの選定要素
この本によると、無意識にリーダーを選ぶ時に見ているのは、
- 顔の印象で判断している
- 2008年のスイスの実験で、供たち681人に2名の顔写真を見せて「どちらを船長に選ぶか」を聞いた。
この2名は架空の人物ではなく、実際の政治家で、ひとりは当選、もう1名は次点だった。なんと子供たちは実際に当選した人物のほうを選ぶ確率が71%だった。
- 2008年のスイスの実験で、供たち681人に2名の顔写真を見せて「どちらを船長に選ぶか」を聞いた。
- 傲慢な態度をとる人がリーダーシップがあるという印象を受ける
- グループ討論でより攻撃的でぶしつけな人のほうが、協力的または控えめな人より指導者らしいと認識されるという研究結果が多数ある。
- 身長・体格・ジェンダー・人種などでの印象
- 米国大企業上位500社のうち468社が男性の経営者。女性は6%ほどである。またこの500社のうち、461社が白人の経営者。非白人は8%ほど。(米国人の40%は非白人)さらには、高身長、体格が良い人もリーダーに選ばれがちである。
- リーダーは自分と似た人を評価する
- 元のリーダーがとんでもない人であった場合、次に選ばれるのも、似た特性の人である場合が多い。
- シグナリングによる誇張を信じる
- 立派な服装や身に着けているもの、豪華なホテル、タワマンなど、「すごい人」という印象でリーダーを選んでしまう。
以上のように、その人の実際の能力ではなく印象で選んでしまいがちだというのです。
「石器時代の脳」が引き起こす進化のミスマッチ
特に体格が良い人をリーダーに選びがちであることについて、この本では、人間の脳が石器時代のままだからではないかと指摘しています。
石器時代は、獲物を狩りで採らなければならず、強靭な体力を持つ人に対する評価が高かったのが、脳に残っているというのです。現に、飽食の時代なのに未だに人は甘いものと脂質に惹かれています。これは石器時代の生きるために求めてきたものが嗜好として残っています。それと同じという指摘です。
でも、整った環境のオフィスにいる中間管理職が石器時代の評価と同じで果たしてよいものでしょうか?
人間の脳が狩猟採集時代の環境に適応してきたため、現代社会の複雑なシステムや状況に必ずしも適応していないとこの本では指摘しています。これにより、私たちは「背が高い自信過剰な男性」のような、過去のリーダー像に適した人物を不適切な理由で選んでしまうのではないかというのです。進化のミスマッチですね。
権力に引き寄せられる人格特性「ダークトライアド」
またこの本では、権力に引き寄せられる人格特性というものがあり、それらはナルシシズム(自己愛)、マキャベリアニズム(他人を操ろうとする傾向)、サイコパシー(共感性の欠如や衝動性)の3つを指す概念であるダークトライアドとして紹介しています。著者は、これらの特性を持つ人々が権力を得ることに長けていると論じています。

なぜ、ダークトライアドが権力を得ることに長けているのか、について研究例を紹介しています。
- マキャヴェリズムの傾向が強い人は、採用面接のときに話をでっち上げたり、誇張したり、嘘をつく傾向がある。
- サイコパスは自分の受けている面接に合わせて話をでっち上げたり、誇張したり、嘘をつく傾向がある。面接ごとにカメレオンのように変える(印象管理の研究より)。
- 1000人の企業従業員に対してダークトライアドの特性評価をしたところ、ナルシストは収入が多く、マキャベリストは社内の出世が上手という調査結果がある。
- 人口全体に比して企業の幹部ではサイコパスの割合が20倍になるという調査研究(ポール・バビアク、クレイグ・ニューマン、ロバート・ヘア)。
- ダークトライアドの傾向が強い人ほど、選挙で再選されやすいが、法案を成立するのが下手だった。(おもいやりがなく実利的な傾向が強いことが影響しているのか。道徳心も欠如している)
ダークトライアドを排除する視点:松下幸之助と稲盛和夫
松下幸之助さんが人を選ぶ時に「素直」を挙げていたり、稲盛和夫さんが「謙虚」を掲げているのは、ダークトライアドを排除する視点でもあったのだと思いました。
自らを律し、目に見えないものを評価する
この本からの気づきとしては、自分自身がダークトライアドにからめとられるようなリーダーにならないように自らを戒めることだと思いました。
わが師、加護野忠男先生の言葉です。
成果を出しやすい仕事と出しにくい仕事がある。成果を出しやすい仕事の人のアピールがうまかったらそれが評価されてしまうところがある。アピールがうまい人とというのは大きな声をだす人です(笑)。しかし下から担いでいる人にはわかる(笑)。でも上からは担いでいる人が見えないので、大きな声の人だけが見える。
日本人にとって働くということは、「他力」の概念を理解することが必要です。(中略)他力本願とは努力は報われない。それがわかったうえで努力をするということを意味します。目に見えないものをどれだけ評価して、報いるかということが大切です。
自分を律するには、やり遂げる自信ともいえる心理的資本に加えて倫理観も必要です。そんなリーダーが増えてほしいと思います。

