仮面をつけるより「心の筋肉」を鍛えよう

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経営者やリーダーとして活躍する友人たちと話していると、彼らは肩肘張らず、とても自然体で無邪気な人が多いことに気づきます。しかし、ひとたび社員や部下と一緒にいる場面に遭遇すると、彼らの無邪気さは影を潜め、いわゆる「社長然」「リーダー然」とした態度に変わることが少なくありません。

これは会社だけの話ではありません。家庭でも、母親として子どもに接する時、つい「母親」という立場から指導的な態度になってしまうことはよくあることです。それは当然のことかもしれません。立場が変われば、求められる役割も変わるからです。

「仮面をつける」ことの功罪

管理職になった際に、これまでのプレイスタイルから脱却し、新たな役割を担うための「仮面」を推奨する書籍や考え方があります。有名なものに『リーダーの仮面』などがあり、仮面をかぶることで思考や行動を変えるきっかけになる、という考え方は一理あります。
しかし、この「仮面」には、別の側面も存在します。
それは、本来の自分らしさを抑圧し、大きなストレスを生む可能性があるということです。また、「リーダーとはこうあるべき」という画一的なステレオタイプに自分を当てはめることにもつながります。予測困難な時代であるVUCA(ブーカ)の現代において、このような硬直的なリーダー像は、組織の柔軟性を損ねてしまうリスクをはらんでいます。

今、求められるのはオーセンティックリーダーシップ

現代において求められているのは、オーセンティックリーダーシップ、つまり「自分らしさを貫くリーダー」や「弱みをさらけ出せるリーダー」の存在です。無理に誰かの真似をするのではなく、自分自身の価値観や信念に基づき、誠実に行動するリーダーシップのことです。

とはいえ、プレイヤーからマネジメント職に変われば、明らかに思考や行動を変える必要があります。この時、「仮面」で自分を押し込めるのではなく、「心理的資本」を高めることが重要になります。

心理的資本HEROとは

心理的資本とは、ポジティブ心理学の概念で、人が逆境や困難に立ち向かうための心のエネルギーです。具体的には、次の4つの要素から構成されており、頭文字をとってHEROと呼ばれます。

  • Hope(ホープ):希望
  • Efficacy(エフィカシー):自己効力感
  • Resilience(レジリエンス):復元力、精神的な立ち直りの力
  • Optimism(オプティミズム):楽観性

このHEROの4つの要素は、もともと個人に備わっている性格的な資質ではなく、後天的に高めることができる「心の筋肉」のようなものです。この心の筋肉を鍛えることで、リーダーとして成長し、チームを導くことができます。

管理職になった時にHEROをどう活かすか

新しい立場に就いた時、このHEROの4つの要素をどのように活かせばいいのでしょうか。

1. Hope(希望)を活かす

「希望」は、目標を達成するために「こうすればできる」という道筋を描き、その目標に向かって「自分ならできる」と信じる力です。

管理職になったら、まずはチームの目標を明確に設定し、その目標を達成するための具体的なロードマップをチームメンバーと一緒に描きましょう。チームメンバーが「自分たちでも達成できる」と信じられるように、過去の成功体験を共有したり、小さな成功を積み重ねるサポートをすることが大切です。

「仮面」をかぶって「できる風」を装うのではなく、チームの未来を具体的に描き、それを本気で信じる姿を見せることが、メンバーに希望を与え、自発的な行動を促します。

2. Efficacy(自己効力感)を高める

「自己効力感」は、「自分にはやれる」と信じる力です。管理職として、この力を高めることが、新しい役割に自信をもって取り組む上で不可欠です。

  • 小さな成功体験を積み重ねる: 新しい役割のなかで、少しでも成功したことを意識的に見つけ出し、自分を褒めてあげましょう。例えば、新しい部下との面談がうまくいった、初めてのプレゼンを乗り切れた、など。
  • ロールモデルを見つける: 理想のリーダー像を持つ人を見つけ、その人の行動を観察し、真似してみることも有効です。ただし、「仮面」をかぶるのではなく、その人の良いところを自分らしく取り入れることがポイントです。
  • 他者からの支援を求める: 困った時は、先輩や上司に助けを求めましょう。「完璧なリーダー」であろうとせず、弱みを見せることで、かえって信頼関係が深まることもあります。

「仮面」で完璧な自分を演じるより、ありのままの自分を受け入れ、成長のための努力を続けることが、本当の自己効力感を育みます。

3. Resilience(レジリエンス)を鍛える

「レジリエンス」は、困難や逆境から立ち直る力です。リーダーには、予期せぬトラブルや失敗がつきものです。

  • 失敗を学びと捉える: 失敗した時、それを個人の能力不足と捉えるのではなく、プロセスや状況の問題として客観的に分析しましょう。なぜ失敗したのか、次はどうすればいいのかを考え、次に活かすことで、心のダメージを最小限に抑えられます。
  • 気分転換のルーティンを作る: ストレスを感じた時にどうすれば気分がリフレッシュできるか、自分なりの方法を見つけておきましょう。運動、趣味、瞑想など、心身を休める時間を作ることが大切です。
  • 弱みを共有する: チームメンバーに「正直、この件はプレッシャーを感じている」と話してみるのも良いでしょう。リーダーも人間であることを知ってもらうことで、かえってメンバーとの一体感が生まれます。

「仮面」で強がりを演じるのではなく、自身の弱さを認め、乗り越える姿を見せることが、メンバーに勇気を与えます。

4. Optimism(楽観性)を育む

「楽観性」は、物事をポジティブに捉え、未来を良いものだと信じる力です。

  • ポジティブなセルフトークを意識する: 困難な状況に直面した時、ネガティブな言葉ではなく、「これは乗り越えられる」「ここから何か学べる」といったポジティブな言葉を自分自身に語りかけましょう。
  • 成功体験を具体的に振り返る: 過去の成功を具体的に思い出し、自分がどうやってそれを成し遂げたのかを再確認することで、「今回もきっとうまくいく」という楽観的な見方を強化できます。
  • 他者のポジティブな側面を見つける: チームメンバーの長所や良い行動を積極的に見つけ、具体的に褒めるようにしましょう。他者のポジティブな側面に焦点を当てることは、自分自身の楽観性を高めることにもつながります。

「仮面」で無理やりポジティブな顔を作るのではなく、自分自身が心から未来を信じることが、チーム全体に楽観的な空気をもたらし、困難な局面を乗り越える力になります。

経営者も、母親も、リーダーも

経営者やリーダー、そして母親としての役割を担う人々が、それぞれの立場で「仮面」をかぶってしまうのは、ある意味、自然なことです。しかし、本当に大切なのは、「仮面」で自分を押し殺すのではなく、自分らしさを活かしながら、必要な心の筋肉(HERO)を鍛えていくことです。

自分らしいリーダーシップを磨き、弱みもさらけ出しながら、メンバーや家族と共に成長していく。それが、変化の激しい現代に求められる、新しいリーダー像ではないでしょうか。

あなたは、どのような心の筋肉を鍛えたいですか?

石見一女

石見一女

Be&Do代表取締役/組織・人材活性化コンサルティング会社の共同経営を経て、人と組織の活性化研究会(APO研)を設立運営。「個人と組織のイキイキ」をライフワークとし、働く人のキャリアと組織活性化について研究活動を継続。『なぜあの人は「イキイキ」としているのか』第1章30歳はきちんと落ち込め執筆、プレジデント社,2006年。

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