「やるべきことがある」ことは幸せなことかも

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皆さんは、日々やるべきことが多すぎて、うんざりしていませんか?仕事はもちろん、家事や育児、ゴミ出しなど社会生活を送る上での様々やることが満載です。

 そんな時、「自分の時間がもっとほしい」「あくせくせずにゆっくり毎日過ごしたい」「あー、毎日旅行したい!」などと思ったりしませんか?

「やるべきことがある」のは、もしかしたら最高の贅沢かもしれない

FIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的自立と早期リタイア)という言葉を聞いたことがある人も多いと思います。早期に潤沢な資産を形成し、お金の心配なく、好きなように生きる選択をした人を「FIREした人」というそうです。
なんとうらやましい、と思いますが、仕事を辞めて好きなことだけやろうとすると、実際は別の苦悩が生まれるようです。
定年退職後もある意味でFIREした人と近いかもしれません。もちろん、定年後の経済格差があるので、金銭面で悠々自適ということはないのでしょうが、「仕事」という生活の中で時間と労力が大きく縛られていた「やるべきこと」から解放されるのです。FIREは実感しにくいけれど、定年後と考えると、果たしてその状況が幸せなのか、と考えてしまいますよね。

実際にFIREを達成した人の中には、その後の生活に虚無感や退屈を感じ、「こんなはずではなかった」とうんざりしてしまうケースも少なくありません。
なぜ、自由な時間と経済的余裕を手に入れたはずなのに、不満が生まれてしまうのでしょうか? その答えは、もしかしたら「やるべきこと」の存在が、私たちが思っている以上に、人生の充実感に深く関わっているからかもしれません。

FIRE後の「やるべきこと」探し、そして定年退職後の「喪失」

先日、FIRE後の生活にうんざりしているというブログ記事や体験談をいくつか拝見しました。そこには、「次に何をしたらいいのかわからなくなった」「目的がなくなってしまった」「社会とのつながりが希薄になった」といった声が並んでいました。
これは、FIREに限らず、定年退職後の多くの人が直面する問題でもあります。

長年、仕事という「やるべきこと」に追われていた日々から解放された時、最初は解放感に満たされても、やがて来るのが喪失感です。社会的な役割、日々のルーティン、仕事を通じて得ていた人間関係、そして何よりも「自分は何のために存在するのか」という問いに対する漠然とした不安。これらは、経済的な安定だけでは埋められない心の隙間を生み出します。

FIREの達成も定年退職も、多くの人にとって仕事からの解放を意味します。通勤や会議、締め切りといった「やらなければならないこと」から自由になり、自分の時間をすべてコントロールできるようになります。しかし、その一方で、それまで自分の日常を形作っていた「やるべきこと」がごっそり抜け落ちてしまうのです。

人は、何か目標に向かって努力したり、誰かの役に立ったり、新しいことを学んだりすることで、達成感や喜びを感じる生き物です。仕事をしている時は、意識せずとも多くの「やるべきこと」に囲まれていました。それは時にストレスの原因となることもありましたが、同時に私たちの生活に張りを与え、存在意義を感じさせてくれるものでもあったのです。

「心理的資本」が満たす、人生の質

ここで注目したいのが「心理的資本」という概念です。これは、私たちが困難な状況に直面した時に目標達成に向けて努力し、目標に到達するための、肯定的な心理状態を指します。具体的には、以下の4つの要素で構成されます。

  • Hope(希望): 目標を達成するための手段を見出し、それに向かって努力する意思を持つこと。
  • Efficacy(自己効力感): 目標を達成できると信じること。
  • Resilience(レジリエンス): 困難や逆境から立ち直る力。
  • Optimism(楽観性): 成功に対して肯定的な期待を持つこと。

仕事や「やるべきこと」がある環境では、私たちは知らず知らずのうちにこれらの心理的資本を育んでいます。
新しいプロジェクトに取り組むことで希望が生まれ、困難を乗り越えることで自己効力感が高まり、失敗から学びながらレジリエンスを養い、未来に対して楽観的になれる場面も多いでしょう。

しかし、FIREや定年退職によって「やるべきこと」が失われると、これらの心理的資本を育む機会も減少してしまう可能性があります。目標がなければ希望を持ちにくく、何かを達成する経験が減れば自己効力感は低下し、逆境と向き合う機会がなければレジリエンスも育ちにくいでしょう。そして、目的のない日々が続けば、楽観性を保つことも難しくなります。

「やるべきこと」がくれる恩恵と「心理的資本」の醸成

考えてみれば、私たちが幼い頃から当たり前のように「やるべきこと」は存在していました。
学校の宿題、部活動の練習、家の手伝い、そして社会に出てからの仕事。それらは時に億劫に感じても、結果として私たちを成長させ、新しいスキルを身につけさせ、社会との接点を提供してくれました。

「やるべきこと」があるということは、目標があるということです。目標があれば、それに向かって計画を立て、努力し、達成した時の喜びを味わうことができます。このプロセスこそが、希望を生み出し、自己効力感を高める源泉となります。また、「やるべきこと」は、私たちに日々のルーティンと規律を与え、生活にリズムを生み出します。そして、時には予期せぬ困難に直面することもありますが、それを乗り越えることでレジリエンスを培い、楽観性を育むことにもつながります。

FIREを達成し、時間の自由を手に入れた人たちが直面する「やるべきこと」の欠如は、まさにこの「目標」「ルーティン」「成長機会」、そしてそれらによって育まれる「心理的資本」の喪失によるものなのかもしれません。

最高の贅沢としての「やるべきこと」と「心理的資本」の意識的な育成

もちろん、無理をして「やるべきこと」を作り出す必要はありません。
しかし、もし今、あなたが
何か目標を持って仕事に取り組んでいたり、誰かのために力を尽くしたり、新しい知識を吸収するために勉強していたりするならば、それはとても幸せなことなのかもしれません。

経済的な自立も素晴らしい目標ですが、それだけで人生が完全に満たされるわけではないことを、FIRE後の体験談や定年退職者の声は教えてくれます。むしろ、経済的な基盤を築きつつ、なおも「やるべきこと」に情熱を傾け、それを通じて「心理的資本」を意識的に育んでいける状態こそが、本当の意味での豊かな人生と言えるのではないでしょうか。

もし、今「仕事が嫌だな」「やるべきことが多すぎて疲れた」と感じている人がいるとしたら、少しだけ視点を変えてみてください。その「やるべきこと」は、あなたが社会とつながり、成長し、充実した毎日を送るための、かけがえのないチケットであり、あなたの心理的資本を豊かにする最高の機会なのかもしれません。

FIREや定年退職を考えている人も、そうでない人も、自分の人生における「やるべきこと」の価値を改めて見つめ直し、「心理的資本」を意識して育むことで、より充実した日々を送れるはずです。

石見一女

石見一女

Be&Do代表取締役/組織・人材活性化コンサルティング会社の共同経営を経て、人と組織の活性化研究会(APO研)を設立運営。「個人と組織のイキイキ」をライフワークとし、働く人のキャリアと組織活性化について研究活動を継続。『なぜあの人は「イキイキ」としているのか』第1章30歳はきちんと落ち込め執筆、プレジデント社,2006年。

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